最近の"SNS疲れ"はアルゴリズム型のタイムラインが引き起こしている

最近の"SNS疲れ"はアルゴリズム型のタイムラインが引き起こしている

#38:2024年2月14日発行

2024/2/14



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written by @raq_reezy

📝 コラム:最近の"SNS疲れ"はアルゴリズム型のタイムラインが引き起こしている

皆さんは、最近どのくらいSNSを見ているだろうか。クリエイター活動をしていると、SNSは使わざるを得ないツールだという人も多いと思う。
僕は以前のニュースレターで書いたように、SNSには「中毒にさせる仕組み」が埋め込まれているので、TwitterやInstagramのアプリをiPhoneから消しており、投稿する情報があるときに開くように、なるべく心掛けている。とはいえ、それでもブラウザで1日に何度もタイムラインを眺めてしまうのだが...。
しかし、以前に比べるとSNSへの依存度は下がっているように思う。その背景には、上のような個人的な取り組み以外にも、SNS自体が変質していることもあげられる。

以前のタイムラインはフォロー & リツイートで構成されていた

昔のSNSは基本的に、フォローしている身近な人の最新情報を追うツールだった。周りのラッパーがどんな日々を過ごしているかとか、どんな活動をしているかとか、界隈のリスナーの方々の日常や曲への感想とか、SNSを開くと、そういった情報が入ってきていた。
もちろん、フォローしている人のリツイートによって、フォローしていない人の投稿が流れてくることもあったが、それはあくまでもフォローしている人が拡散した情報だけであり、言ってしまえばフォローの延長線上のものだった。
「エコーチャンバー現象」という言葉もあったが、SNSのタイムラインは大原則として、自分が見たい情報が流れてくるようにコントロールすることができた。気に入らない情報が入ってくるようになれば、そうした気に入らない情報を広めている人のフォローを外せば、タイムラインはすぐにいつもの牧歌的なものに戻った。
しかし、そうした状況が一変したのは、タイムラインをアルゴリズムがコントロールするようになってからだ。タイムラインの大部分はフォローしていない、知らない人による"バズった投稿"で埋め尽くされるようになった。

なぜSNSのタイムラインはアルゴリズム型になっていったのか

さて、アルゴリズム型のタイムラインの功罪に入る前に、少し寄り道をして、なぜSNSのタイムラインはアルゴリズム型になっていったのかということに触れておきたい。
これは多くの人がリアルタイムに見てきたので、言うまでもないかもしれないが、TikTokの大成功が大きい。そして、TikTokの大成功の背景には、当然ながらDeep Learningなどの機械学習の発展があると思う。
TikTokは、機械学習やアルゴリズムによって、ユーザーが見たいコンテンツを予想して、最初からそれをドンピシャで見せるという、革命的なユーザー体験を生み出すことで、爆速で成長してきた。それはまるで、メニューを見ることなく、食べたかった料理を出してくる料理店のようなもので、まさに魔法のような体験だった。
「フォロー」などのユーザーによる意思表示なしに、アルゴリズムで人気コンテンツや反応が良いコンテンツを次々に見せるという革命的な体験デザインによって、TikTokはあっという間にSNS業界の地図を塗り替えた。
しばらく経った頃、マーク・ザッカーバーグ氏は、TikTokの強さを目の当たりにして、InstagramなどのMeta社のアプリを急速に作り変え始めた。一時期、3ヶ月ごとに開かれるアナリスト向けの説明会のたびに「機械学習によるタイムライン表示と、リール動画に力を入れます」と繰り返し説明していたのが強く記憶に残っている。つまり「InstagramをTikTokに作り替えます」という宣言だった。
TikTokに影響を受けたのは、ザッカーバーグ氏(Instagram & facebook)だけではない。YouTubeもショート動画を始めたり、アルゴリズムによるレコメンドを強めていった。そして、それはツイッターも同様だった。気づけば、フォローによってタイムラインが決まっていた時代は終わり、ほぼ全てのSNSがアルゴリズムによってタイムラインを決めるようになった。

アルゴリズム型のタイムラインの功罪

アルゴリズム型のタイムラインには、当然ながらいくつかのメリットも存在する。フォローしていない人の情報も入ってくるので、視野が広がったり、新しい情報に触れやすくなるというのが、その最たるものだろう。
それから、アルゴリズムにピックアップされれば一気に伸びるので、フォロワーが少ない人でも、バズる素質のある投稿ができればバズりやすくなったというのもある。毎日のように新しいバズやスター、トレンドが巻き起こるようになったのもアルゴリズム型になってからだろう。
一方、アルゴリズム型のタイムラインになってから、僕たちはタイムラインのコントロール権を失ってしまったというデメリットもある。タイムラインには、フォローしている身近な人の日常ではなく、強制的に時事的な話題や最新の流行りもの、最近の炎上事案のような内容に関する投稿が多く表示されるようになった。
また、RT&フォロー型のタイムラインであれば、あくまでも似たようなコミュニティの中だけで投稿が回覧されている状況だったが、アルゴリズム型のタイムラインはそれも変えてしまった。
例えば、ある人が「Aが嫌い、Bが好き」と言ったときに、元々そうした投稿は同じような「Aが嫌い、Bが好き」という人のコミュニティの中だけで、フォロー・RTによって広がっていた。
しかし、アルゴリズムは「Aが嫌い、Bが好き」という投稿を「Bが嫌い、Aが好き」という正反対の好みを持つ人に見せれば反応が良いということに気づけば、それをガンガンと後者のコミュニティの人のタイムラインに流し込む。
後者のコミュニティの人がいいねやRTをしなくても、各投稿の閲覧時間や、その投稿者のプロフィールを見に行ったかどうかなど、あらゆる情報でアルゴリズムは判断するので、簡単に「反応した」ことを察知して、後者のコミュニティの他の人にもその投稿が表示されていく。そうすると、当然、後者のコミュニティの中には反論をする人が出てくるし、それをアルゴリズムはせっせと前者のコミュニティの人に回覧するようになる。
SNSが日々、荒れに荒れるようになったのは、こうしたアルゴリズム型のタイムラインの構造的な欠陥によるところも非常に大きいと思う。

では、どうすれば良いのか

まだアルゴリズム型のタイムラインが本格的にメジャーになってから数年しか経っていないため、どうすれば良いかという考えは、残念ながら特にない。ある程度SNSと距離を置くことはもちろんひとつの対処法だと思うけれど、それは次善策のような感じがする。
ひとついえることは、SNSがますますアルゴリズムによるキュレーションへと進んでいくのであれば、それとは関係のない、自分でコントロールできる情報源を別で持つようにしていくしかないだろう。


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HN:こどおじさん

いつもありがとうございます。アラフォーですがラップを始めました。世に聴いてもらえるようになりたいと思っています。プロとして音楽を長くやられてきて、「これは早くやっておけばよかったな」 というようなことがあればご教授いただけないでしょうか。よろしくお願いします。
アラフォーで新しいことに挑戦できるのは凄いし、ラップを始められたとのことで、大変嬉しいです!自分をプロと呼べるかはちょっと微妙なのですが、個人的に「早くやっておけばよかったな」と思うのは、(1)Logic Pro Xを使うこと、(2)ストリーミングに配信することの2つです。

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